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せいこのしじん
西湖の屍人
海野 十三
「新青年」博文館、1932(昭和7)年4月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,487 字 · 39 页
空はコバルトに晴れ、雲の影もなかった。このごろは毎日お天気つづきだった。
湖の左手には、黛をグッとひきのばしたように、蘇提が延々と続いていた。ややその右によって宝石山の姿がくっきりと盛上り、保叔塔らしい影が、天を指していた。いつ見ても麗しい西湖の風景だった。
だが、いつ見ても変らぬ風景だったことが、漢于仁には物足りなかった。それにこの室の窓は、非常に厚い壁を距てた彼方に開いていたので、自然、視界が狭く、窓下を覗くことも叶わなかった。
この室は、漢于仁の故郷であるところの浙江省は杭州の郊外、万松嶺の上に立つ、直立二百尺の楼台のうちにあって、しかもその一番高いところにあった。近代風の試みから、この室の天井は、厚い曇り硝子を貼りつめてあるので、日中は朝から晩まで、陽の光がさし、硝子を透して大空の青さが見えるようであった。
せめてこの室の南側に、もう一つの小窓でもあいていたら、そこからは、風致上よろしくはないかも知れないが、銭塘江の賑やかな河面が、近眼の彼にも、薄ぼんやり見えたことであろう。
(何故、自分の先祖は、この楼台の頂上に、たった一つの小窓しか、明けなかったのだろう)