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せいこのしじん

西湖の屍人

海野 十三

「新青年」博文館、1932(昭和7)年4月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,487 字 · 39 页

青空文庫

明るい屋根の下の室だった。グルリと見廻わすと、五間四方位の室だった。室内の調度は……。

「おおッ」

と彼は叫んだ。よく見ると、いちいち、古い記憶のある調度ばかりだった。鶯色の緞子の垂幕、「美人戯毬図」とした壁掛けの刺繍、さては誤って彼が縁を欠いた花瓶までが、嘗て覚えていたと同じ場所に、何事もなかったかのように澄しかえって並んでいたのだった。すると、この室は?

「これは、故郷の杭州に建っている鳴弦楼だ。少年時代に遊びくらした部屋ではないか、おお、あすこには、懐しい小窓がある。あの外には絵のように美しい西湖が見えるのだ。見たい、見たい、生れ故郷の西湖を!」

漢青年はムックリ起きようとして、ハッと顔色をかえた。手が無い、足も無いのだ。いや身体全体が無いのだ。「おお、これはどうしたことだ」

彼は、気が変になったようになって、あたりを見廻した。室内の光景に、不思議はなかった。そして、いや、あった。あった。寝床の上に、彼の足が、長々と横たわっていた。胴もある。おお、手も見えるではないか。

彼は、再び起きようと試みた。

だが、驚いたことに、眼でみると、そこに在るに違いない手だの脚だのが、動かそうとなると、俄かに消えてなくなったように感じられるのだ。