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せいこのしじん

西湖の屍人

海野 十三

「新青年」博文館、1932(昭和7)年4月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,487 字 · 39 页

青空文庫

それからあの小窓から、外をお眺めなさいませ、楚提が長く連っているのが見えます」

漢青年は、気がつくと、いつの間にか窓辺によっていた。そこから、西湖の風光が懐しく彼の心を打った。こうして、漢青年の幻想生活が始まった。

彼は、思い出したように食事をした。死んだものが食事をするとは、変ではないかと考えた。

「それは幻影だ。食事は永い間の習慣だ。そのような種類の幻影は、中々消えるものではない」どこかで、そう囁く者があるようだった。

漢青年は、幻影を自由に楽しんだ。殊に彼にとって好ましかったのは、マリ子を傍近く呼んで、他愛のない話をしたり、その果には思切った戯れを演じてみるのだったが、マリ子はどんなひどいことにも反抗しないで、あらゆる彼の欲するところに従った。反抗のない生活――そこにも漢青年は、幽界らしい特徴を発見した。

だが、それにも倦きてくると、彼はあらゆるものに注意を向けた。ことに彼を喜ばせたものは、音響だった。どんな微かな音響であっても、彼は見遁すことなく、その音響が何から来るものであるかについて、考えるのが楽しみになった。ことに、どうしたわけか、この楼台が震動すると共に起る音響に対して、興味がひかれたのだった。