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せいこのしじん

西湖の屍人

海野 十三

「新青年」博文館、1932(昭和7)年4月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,487 字 · 39 页

青空文庫

「シュジュツゴ、ガーゼヲトッテ、テガミヲミヨ」

「手術後、ガーゼを取って、手紙を見よ」この信号は、繰返し発信されたのだった。

口の利けず、耳の聞えない医師は、最後に大きいガーゼをあてて、その周囲を絆創膏で止めると、遂に一語も発しないで、部屋を出ていった。孫も王も、医師を見送るためにこの室から出た。

漢青年にとって、チャンスは今だった。

彼は手を伸ばすと、ガーゼを掴んだ。手を動かす練習をもうすこし遅く始めたのだったら、彼はこのチャンスを、むざむざと逃がしたかも知れないのだ。

ガーゼの中には、果して小さく折った紙片が入っていた。彼は口も使って苦心の結果、その手紙というのを開くことに成功した。そこには、漢青年の脳髄を痺らせるほどの重大なことがらが認めてあった。

「今夜、電燈の消えるのを合図に、天井の硝子板を破って、脱れいでよ」

漢青年は、三度ほど読みかえすと、その紙片を丸めて、ポンと口の内へ入れて、呑みこんだ。

脱走せよ、という者がある。何者とも知れない。しかしこれも「死後の世界」に於ける幻想であろうか。

これが生きているのだったら、軽々しい行動は考えなければならない。