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さいかくとかがく
西鶴と科学
寺田 寅彦
「日本文学講座 第十五巻」改造社、1935(昭和10)年1月21日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,913 字 · 20 页
彼が新知識、特にオランダ渡りの新知識に対して強烈な嗜慾をもっていたことは到る処に明白に指摘されるのであるが、そういう知識をどこから得たか自分は分からない。しかし『永代蔵』中の一節に或る利発な商人が商売に必要なあらゆる経済ニュースを蒐集し記録して「洛中の重宝」となったことを誌した中に、「木薬屋呉服屋の若い者に長崎の様子を尋ね」という文句がある。「竜の子」を二十両で買ったとか「火喰鳥の卵」を小判一枚で買ったとかいう話や、色々の輸入品の棚ざらえなどに関する資料を西鶴が蒐集した方法が、この簡単な文句の中に無意識に自白されているのではないかという気がする。
こうした外国仕入れの知識は何といっても貧弱であるが、手近い源泉から採取した色々の知識のうちで特に目立って多いものは雑多なテクニカルな伝授もの風の知識である。例えば『永代蔵』では前記の金餅糖の製法、蘇枋染で本紅染を模する法、弱った鯛を活かす法などがあり、『織留』には懐炉灰の製法、鯛の焼物の速成法、雷除けの方法など、『胸算用』には日蝕で暦を験すこと、油の凍結を防ぐ法など、『桜陰比事』には地下水脈験出法、血液検査に関する記事、脈搏で罪人を検出する法、烏賊墨の証文、橙汁のあぶり出しなどがある。