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きく

親しい友人たち 山川方夫ミステリ傑作選

山川 方夫

山川方夫『親しい友人たち 山川方夫ミステリ傑作選』。同一底本的分册已合并为一书。收入:菊、トンボの死、ロンリー・マン、愛の終り、赤い手帖、暑くない夏、あるドライブ、恐怖の正体、蒐集、ジャンの新盆、博士の目、はやい秋、非情な男、メリイ・クリスマス。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 67,486 字 · 144 页

青空文庫

きっと私はただぼんやりとしていたのだろう。博士がその私の肩を小突いた。窓のほうを眺めるよう、目で合図をした。

私は指図されたとおり、窓から家鴨の群れている水溜りの方角をながめた。小さな一つの点がそのとき氷の上に飛び上って、左右に揺れながらまっすぐにこちらへと進んできた。それは、一羽の家鴨だった。張りつめた氷の上を、よちよちと歩きながら、けんめいな速度で私たちのいる小舎へと向ってくる。

「ご紹介します。……ミセス・デーヴィスです」

と、博士はいった。私は戦慄した。笑いもせず、博士の手は、あきらかにそのよちよちと近づく一羽の家鴨を指しているのだ。そして、博士の目は変化していた。その目は焦点がなくなり、明るく澄んだ茫漠とした視野の中に私をつつんでいた。私は、音もなく自分がその中へ、博士の目の奥にひろがるもう一つの世界へ、吸いこまれてゆくような気がしていた。私は、目をそらすことができなかった。

と、博士の目が動いた。窓枠に、いまの家鴨がとまっていた。

ふたたび、恐怖が私の全身をはしった。博士と家鴨とは、おたがいに同じ目で見合っていた。……私は呆然としてその二つの目をながめた。