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きく

親しい友人たち 山川方夫ミステリ傑作選

山川 方夫

山川方夫『親しい友人たち 山川方夫ミステリ傑作選』。同一底本的分册已合并为一书。收入:菊、トンボの死、ロンリー・マン、愛の終り、赤い手帖、暑くない夏、あるドライブ、恐怖の正体、蒐集、ジャンの新盆、博士の目、はやい秋、非情な男、メリイ・クリスマス。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 67,486 字 · 144 页

青空文庫

一家のただ一人の働き手である彼女は、まだ十九だった。

夏休みが終ると、青年は電器会社には来なくなった。が、喫茶店にはときどき姿をみせ、彼女にコーヒーをおごられては、きまって小さな封筒に入ったなにかを受けとって帰って行くのだった。その青年の後ろ姿をぼんやりとみつめながら、彼女はいつもひどく幸福そうな表情をうかべていた。

「なにを渡しているの? いつも」

あるとき同僚の一人がきくと、彼女はニコニコして答えた。

「あれ? あれはね、トンボのエサ」

ふしぎがる同僚に、彼女は善良そのものの顔で説明するのだった。

「あの人ね。小さな鳥カゴの中に二匹のトンボを飼っているの。オスのほうは太郎、メスはエミ子っていう名前なのよ。とっても可愛いくって、名前を呼ぶと羽ばたきして近寄ってくるんだって、ただね、あの人、働かなくちゃならないんで、エサをとってきてやるひまがないのよ。それで、私がかわりにいっしょうけんめいハエをとって、その死骸をああして封筒に入れて渡したげることにしてるの。……あの人、とっても感謝しているのよ」

冷房がそろそろ不要になりはじめた秋のある日だった。喫茶店に、彼女あてに署名のない手紙が来ていた。