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おやかたコブセ

親方コブセ

金 史良

「新潮 通卷四百四十四號(一月號)」新潮社、1942(昭和17)年1942(昭和17)年1月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,006 字 · 16 页

青空文庫

唄は相愛者が別れの悲しい俗謡だった。

別れ火となり

焼くはわが心

涙ぞ雨とならば

火も消さんに

溜息風となり

心一入燃ゆ

「実は今日この人達が南へ出稼ぎに行くんだよ。それであの親方が……」と、O君はコブセを顎で示しながら、私の耳に囁いた。「送別宴というので、みんなを足止めにした訳さ。僕も電車を三つ四つ待ってみても来ないから、あきらめてここへ引返したところだがね」

「何人位行くのだい?」

「あれの配下だけでざっと二十名」

「いつか云ってたのはあの人のことだろう? 先程煙草屋で喧嘩してたよ」と云ってふと笑い出した。私はO君からも一度ならず彼のことを聞かされていたのである。ひどい不具でありながら微塵もひねくれていないばかりか、非常な配下思いの親方で、常人さえ舌を巻く程口八丁手八丁、それにどこへでも当って砕けるといった性分だとO君は讃嘆していた。しかも彼が乗り出してうまく行かぬことは何一つないとも聞かされたが、私はつい今しがたそれを実地に見届けた訳である。それにつけてもこんな面白い話があった。この親方は郷里からある出戻り女を写真見合いで呼び寄せたが、夜分女は彼の小屋へ来てみて、親方が意外にも佝僂であるのにびっくりし、死んでもいやだと仲人に宣言したとか。