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うたせてやらぬかたきうち
討たせてやらぬ敵討
長谷川 伸
「歌舞伎 秋季臨時増刊」歌舞伎出版部、1925(大正14)年9月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,752 字 · 22 页
宮内は慎九郎の、強げな体を今更らしく眺めた。同じく生をこの世に亨けて、一人はもてはやされる力に充ちた体をもち、一人は女にまで蔑まれる弱々しい体をもっている、甚だしいこの差別を持って生れて来たのを、天賦だというだけで、手軽くあきらめをつけねばならぬことはどう考えてもわからない理だった、――力を出そう、なんかしらの武器をとって、長所をつくろう。宮内は今までそれを怠ってはいなかったが、力はいつまでたっても出なかったのだ、武芸は何一つとして、人並みにはなれなかったのだ。
「宮内、泣いているな、こりゃ面白い」
「…………」
「抜き合わせて勝つ見込みがない、さりとて口惜しくもある。それで泣くのじゃな、はッはッはッ宮内よく聞けよ、武士は泣かぬものじゃ」
「如何にも、泣いた、泣いている、口惜しさに泣いているのじゃ」
「左程無念なら、遠慮はいらぬ、この場で、やろうか、慎九郎は何時でも心得たとこそいえ、あすにせよとは決していわぬぞ」
「慎九郎などにはわからぬことじゃ、泣くのは自身を泣いているのじゃ、汝達のことばかりで泣くのではない」
「口賢くいい抜けるな、慎九郎は憎し、さりとて己れは非力でうち勝つ見込みはない、それで泣いているのじゃ、骨細男とはいえ武夫じゃ、白昼、諸人の目前で泣く奴があるか」