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うたせてやらぬかたきうち

討たせてやらぬ敵討

長谷川 伸

「歌舞伎 秋季臨時増刊」歌舞伎出版部、1925(大正14)年9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,752 字 · 22 页

青空文庫

「何とでもいえ――が慎九郎、非力者とうたわれたこの宮内が、生死を賭けて争う場に臨んでも、果して平常の如き非力者であろうか」

「妙なことをいう奴じゃ」

「実地にやったことはないのじゃ、なれども、宮内は固く思っている、すわというとき、宮内は決して怯者でない、むしろ大胆不敵の男になれる、如何ばかりの勇士でも、宮内は必ず仕止めてみせる」

「兵学の講釈を、宮内から聞くとは思わなかった。それほど自慢の心があるなら、勇士を仕止めてみろよ」

「うむ――追ってはそういうときもくるに違いない、まあ後々をみておれ」

宮内はプイと立去った。

◇

その翌年の春、宮内の母が亡くなって、小屋の起居は宮内一人の淋しい朝夕となった。

寛永十九年の秋の訪れが、この雪の早い国にもうやって来た。やがて峰々から吹いてくる風が、雪霙の先触れをして、冬籠りの支度は何処の家でも、たいていもう整った。

槍の名手と評判があった、矢作治部太夫は、今日は寒さがちと酷しいので、城中から下がってくると直ぐ、好きな酒をちびちびと飲みはじめた。そこへ弓削田宮内が訪れて来た。

「宮内がきた、どう思ってきたのか――ま、是非がない、ここへ通せ」