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うたせてやらぬかたきうち

討たせてやらぬ敵討

長谷川 伸

「歌舞伎 秋季臨時増刊」歌舞伎出版部、1925(大正14)年9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,752 字 · 22 页

青空文庫

馬橋から南へ路をとり、中野で銃口を城に向け、三十梃一時に放発して、君臣手ぎれの狼火に代えた。宮内が押っ取り刀で飛び出したのは、その銃声のためであった。

主水の率いる三百余人は、倉兼川を越えると直ぐ、橋を焼き落して日光街道を、蘆野原の関所を押して通り、二股山で槍薙刀鉄砲を棄てて関東へ向って行ってしまった。

弓削田宮内は城中へ駈け込みながら、自分の外には、駈けつける者のないのに驚いた。さすがに犇めいてはいるが、早急に討手の人馬が、城外へ押し出す様子は更になかった。宮内は手持ち無沙汰になって、ただうろうろと、その辺を歩く外にすることがなかった。

先ほどからといっても、宮内よりは大分遅く駈けつけた一人に、生島慎九郎という血気の武士がいた。今はじめて宮内の色の白い顔に気がついた。それのみならず病気であることを知らなかったので、宮内の血色の良くない顔と、物憂わしげな眼つきとを見て、嘲り笑いが顔にこみあげて出てきた。

「宮内、おみは今頃漸く着到か」

いわでものことをと、慎九郎は直ぐ後悔した。殊に宮内には、触れたくない事情を慎九郎はもっていたのであるが、いってしまった後なのではたと困った。