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しけんかん

試験管

寺田 寅彦

「改造」1933(昭和8)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,595 字 · 20 页

青空文庫

のごとく至るところにつきまとって私を脅かすのであった。

だれが考えたものか知らないが、この鉄片はとにかく靴のかかとの磨滅を防ぐために取り付けたものには相違ない。しかし元来靴というものは、「靴自身のかかとのすり減らないためにはくもの」ではなくて、生身の足を保護するためにはくものである。もし足はどうなってもいい、靴さえ減らなければいいというのならば、いっその事全部鋼鉄製の靴をはけばいいわけである。

はきごこち、踏みごこちの柔らかであるということは、結局磨滅しやすいということと同じことになるのではないか。靴底と地面との衝撃の結果として靴底が磨滅されるおかげで、不愉快な振動が肉体に伝わることを防止するのであろう。

畳がすり切れて困るから、床を鋼鉄張りにするというのも同じような話である。

こんな不平をいだいて、二三日歩き回っているうちに、不思議なことには、この靴底の三角の鉄片の存在を主張する叫び声がだんだんに、自然に弱くなって来た。ゴリゴリ、ゲリゲリと鋸の目立てをするような音はほとんど聞かれなくなった。そうして、この鉄片の軽く地面をたたくコツコツという音が、次第にそれほど不愉快でなく、それどころか、おしまいにはかえって一種の適度な爽快な刺激として、からだを引きしめ、歩調を整えさせる拍節の音のようにも感ぜられるよう