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しけんかん
試験管
寺田 寅彦
「改造」1933(昭和8)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,595 字 · 20 页
二 草市
七月十三日の夕方哲学者のA君と二人で、京橋ぎわのあるビルディングの屋上で、品川沖から運ばれて来るさわやかな涼風の流れにしながら眼下に見通される銀座通りのはなやかな照明をながめた。煤煙にとざされた大都市の空に銀河は見えない代わりに、地上には金色の光の飛瀑が空中に倒懸していた。それから楼を下って街路へおりて見ると、なるほどきょうは盆の十三日で昔ながらの草市が立っている。
真菰の精霊棚、蓮花の形をした燈籠、蓮の葉やほおずきなどはもちろん、珍しくも蒲の穂や、紅の花殻などを売る露店が、この昭和八年の銀座のいつもの正常の露店の間に交じって言葉どおりに異彩を放っていた。手甲、脚絆、たすきがけで、頭に白い手ぬぐいをかぶった村嬢の売り子も、このウルトラモダーンな現代女性の横行する銀座で見ると、まるで星の世界から天降った天津乙女のように美しく見られた。
子供の時分に、郷里の門前を流れる川が城山のふもとで急に曲がったあたりの、流れのよどみに一むらの蒲が生い茂っていた。炎天のもとに煮えるような深い泥を踏み分けては、よくこの蒲の穂を取りに行ったものである。