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どくしょへんれき

読書遍歴

三木 清

「文芸」1941(昭和16)年6月~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 36,120 字 · 72 页

青空文庫

どのような本を読んだかは、ある意味ですべて偶然的なことである。しかし他方それはまたすべて必然的なことである。この偶然性と必然性とをいくらかでも示すためには、人間について、とりわけ自分について書くのを避けることができない。それから生じ易い危険を逃れる手近な方法は、できるだけ簡単に、事実だけを記すということである。

中学を出ると、私はひとりぼっちで東京のまんなかに放り出された。一高に入学した私は、そこに中学の先輩というものを全くもたなかった。そして私はまた卒業するまでそこに中学の後輩というものを全くもたないでしまった。かようなことがわが国の特殊な社会事情において、ことに田舎から出て来た一人の青年にとって何を意味するかは、読者の想像し得ることであろう。そのうえ私の家には東京に知人というものがまるでなかった。その頃は九月の入学であったが、叔父が紹介してくれた保証人に挨拶に行くという父と一緒に途中暴風雨のために東海道線が不通になったので、中央線を廻ってたくさんのトンネルを抜け、油煙と汗とに汚れて、飯田町の駅に降りた時の気持は今も忘れることのできないものである。