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どくしょへんれき
読書遍歴
三木 清
「文芸」1941(昭和16)年6月~12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 36,120 字 · 72 页
今にして考えると、青春の甘い感傷に属するに過ぎぬものが多い。もちろん私は甘さというものを一概に無価値であるなぞと考えるのではない。それはともかく十分に日本的であるということができるであろう。『聖書』は繰り返して読んで、そのつど感銘を受けた本であった。しかし旧約の面白さがわかるようになったのは、ずっと後のことである。『聖書』は今も私の座右の書である。仏典の経典では浄土真宗のものが私にはいちばんぴったりした。キリスト教と浄土真宗との間にはある類似があると見る人があるが、そういうところがあると考えることもできるであろう。元来、私は真宗の家に育ち、祖父や祖母、また父や母の誦する「正信偈」とか「御文章」とかをいつのまにか聞き覚え、自分でも命ぜられるままに仏壇の前に坐ってそれを誦することがあった。お経を読むということは私どもの地方では基礎的な教育の一つであった。こうした子供の時からの影響にもよるであろう、青年時代においても私の最も心を惹かれたのは真宗である。そしてこれは今も変ることがない。いったいわが国の哲学者の多くは禅について語ることを好み、東洋哲学というとすぐ禅が考えられるようであるが、私には平民的な法然や親鸞の宗教に遙かに親しみが感じられるのである。