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どくしょへんれき

読書遍歴

三木 清

「文芸」1941(昭和16)年6月~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 36,120 字 · 72 页

青空文庫

そしてまた哲学はドイツに限るようにきかされていたので、英語のものを読むとすればしぜん心理や論理の本を読むということにもなったのである。当時の一高生はよく本郷から日本橋の丸善まで歩いて行ったものであるが、そうして買って読んだ本で、今も私の手許に残っていて懐しいものに、ジェームズの『心理学原理』、ミルの『論理学体系』などがある。しかしその時代は何といってもわが国の思想界ではドイツの学問が圧倒的であった。心理学の方面でもヴントの名が最も喧しかった。私も速水先生の訳されたヴントの小さい心理学を初め、須藤新吉氏のヴントの『心理学』などを読み、また古本屋でヴントの『心理学綱要』の原書を見つけてきて勉強した。哲学の方面でもその頃からヴィンデルバントを初め新カント派の哲学が次第に一般の流行になりつつあった。ある時、三並先生を柏木のお宅に訪ねたら、哲学をやるにはカントを研究しなければならず、カントを研究するにはコーヘンのカント論を読まねばならぬといって、マントルピースの上に置いてあったコーヘンの三つのカント書を見せて下さった。そのような時代であったので、戦争のためにドイツの本が来なくなると日本の学問は衰えるというような論も行なわれた。