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かいなべのうた
貝鍋の歌
中谷 宇吉郎
「文藝春秋」1961(昭和36)年4月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 1,770 字 · 4 页
北海に愚魚あり
その名をほっけという
肉は白きこと雪片を欺き
味はうすきこと太虚に似たり
一片の三石の昆布
一滴のうすくちの醤油
真白なる豆腐に
わずかなる緑を加う
くつくつと貝鍋は煮え
夜は更けて味いよいよ新たなり
まだ子供たちが幼かった頃、うまくだまして、早く寝つかせた夜は、奥の六畳の長火鉢で、よく貝鍋をつついた。
住みついてみると、北海道の冬は、夏よりもずっと風情がある。風がなくて雪の降る夜は、深閑として、物音もない。外は、どこもみな水鳥のうぶ毛のような新雪に、おおいつくされている。比重でいえば、百分の一くらい、空気ばかりといってもいいくらいの軽い雪である。どんな物音も、こういう雪のしとねに一度ふれると、すっぽりと吸われてしまう。耳をすませば、わずかに聞こえるものは、大空にさらさらとふれ合う雪の音くらいである。
こんな夜は、長火鉢に貝鍋をかけ、銅壺に酒をあたためて、静かで長い夕食をとる。貝鍋の魚には、いろいろためしてみたが、けっきょく一番安くて、一番味のない、ほっけに落ちついた。
これは磯魚であって、鱈の子供が、親にはぐれて、陋巷にすみついたような魚である。