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ひんみんくらぶ

貧民倶楽部

泉 鏡花

「北海道毎日新聞」1895(明治28)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 55,333 字 · 111 页

青空文庫

や、何方も沸切らぬ堅い談話はまたの日するとして面白く談話そうではないか。なあ。」と見返れば、「それが可うございましょう。」時次郎は御意次第。

照子は一番に大賛成、「御前また戦の談話を遊ばせな。あの貴下が命からがらで御遁げ遊ばす処が一番愉快い。」

伯爵は苦笑。「うふふふ、我を如燕になさる。そういうことをいわるると恐怖い談話をするぞ、怪談を。」と仰する折しも、庭にて犬の鳴く声頻なり。

「夫人、大層吼えおるな。」

とさすがは後見気を着けたまえば、

「は、先刻怪訝な……犬が入りました。」

「ちょっと、私が……あの見て参じます。」と茶の道に侍うたる小間使の秀、御次へスルリ、辷出でて東の縁の雨戸一枚外して取るや否や、わんと飛付くを、叱――叱りながら、ちょいと妙な手附をして、帰天斎手品の早業「じゃむこう、御苦労だね。」とごく小声。犬は一散に引返して、垣を潜りて出でたる外には、提灯提げて彳む女。

「見せな。」と渠を引寄せて頸環に結べる紙片を取り、灯影に透かして、読めば曰、

小田原評定に過ぎず候

「可し。」と呟きて提灯ふっと消し、「これは可いとして、お秀の身に、もしひょっと……ああ、気に懸る。