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ひんみんくらぶ

貧民倶楽部

泉 鏡花

「北海道毎日新聞」1895(明治28)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 55,333 字 · 111 页

青空文庫

番人幾たびも見巡りしが、何事も無くて夜は明けぬ。

門長屋の兵六老爺、大手を開けに朝疾く起出でて、眼と鼻を摩りながら、御家の万代を表して、千歳の翠濃かなる老松の下を通りかかれば、朝霜解けた枝より、ぽたり。

兵六震い上りて、「おお、冷え。老人に冷水、堪ったもんじゃねえ。」と呟きつつ、打仰ぎて一目見るより、ひええ! と反って飛退り、下駄を脱ぎて、手に持ちはしたれども、腰の骨の蝶番がっくり弛みてただの一足も歩かれず、くしゃりと土下座して、へたへたになり、衣服をすっぽりと引被りて、南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏。

門外に靴音して、朝巡回の巡査、松の木の縊死を認めて、戸を叩き、「開門、開門。」

と音訪う処へ、新聞配達、牛乳配達、往来を掃きに出でたる向の親仁、隣の小僧、これを見付けて寄集り、「なるほどこれじゃ、道理で恐しく犬が吠えた。」

「もし、こりゃやっぱり喰詰めたのでございましょうね。」

「さればさ、年寄だからどの道色気ではねえて。」と、くだらぬ下馬評。

「貴下、この邸はいつでも晩く戸を開けますか。」と巡査は問う。「いいえ、旦那、兵六という門番が名代の疾起なんで、今朝はどうしたというのでしょう。