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ひんみんくらぶ
貧民倶楽部
泉 鏡花
「北海道毎日新聞」1895(明治28)年7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 55,333 字 · 111 页
か、持国広目ありとというとも、これよりして多事ならんと、思去り思来たりて、綾子は車上に憂悶せり。
夫人は瞑目沈吟して、腕車はいずこを走るやらんしばらくは現なり。
「ええッ此奴。」と度外れの大声に耳を驚かして眼を開けば、梶棒をがたりと下して、「夫人提灯を点けますからちょいとどうぞ。」と車夫の吉造、婦人を一人輪の下に轢かんとせし、ようよう車を踏留め、胆を潰せしむかばらたち、燐寸にあたりて二三本折っぺしょり、ますます苛ち、「命知らずの馬鹿者め、何だって往来に坐ってるんだ。我が腕に覚えがあって旨く立停まったればこそ、さもなけりゃ、頭を破るか、脛を折るか、どうせ娑婆の者じゃねえ、そりゃ我だって暮合に無燈火も悪かったけれど、大道中に坐ってる法はねえ。」
と擦っては消し擦っては消し、ようよう点けたる提灯の燈明に照せば、煉瓦の塀と土蔵の壁との間なる細き小路に、窶れたる婦人俯伏になりて脾腹を押え、鞠のごとくに身を縮めて呼吸も絶ゆげに苦めり。肩の辺に負れかかりて、茶褐色の犬一頭、飼主の病苦を憂慮いてそを看護らんと勤むるごとし。
車夫は別に気にも留めず、「へい、お待遠様。