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あかいかしゃ

赤い貨車

宮本 百合子

「改造」1928(昭和3)年11月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 35,168 字 · 71 页

青空文庫

娘が、

「あれは面白いよ」

と云った。

「みた? お前」

「いいえ。……わたし映画大好きだけれど高くって――それにわたしいつも独りで行かなけりゃならないんです。みな友達づれだのに、はじめっからおしまいまでわたし黙って坐ってるんです」

「どこかに働いてるの」

「ええ」

「組合に入ってないの、お前」

ナースチャは、拇指のつけ根みたいなところで口のはたをふきながら娘を見た。ナースチャはきかれたことを理解しなかった。

「組合……どんな」

「ナルピット」

「そこへ入ると映画がやすくなるんですか」

「わたしいつだって十五カペイキか二十カペイキでみている」

やっと石油が売り出され、列は少しずつ前進しはじめた。娘は繩で壜をつるし上げながら云った。

「わたしもう二年組合に入って、夜は勉強しているし、朝九時から夕方五時ぐらいまでの働きだし、満足してるわ」

壜へ石油をつめてもらうと、娘は、外套に雪をつけたまま、ナースチャの横を通りぬけて先へ出て行った。

村での話とはちがって、ナースチャがいつくと、直ぐ二人も借室人が入った。その一人が、直接の主人よりナースチャになんだかおっかぶさって(悪魔にさらわれろ)泣きたい気持にさせるのも仕方がないとする。