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あかいへや
赤い部屋
江戸川 乱歩
「新青年」博文館、1925(大正14)年4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,114 字 · 36 页
併し誰一人之れに答えて批判の口を開くものもなかった。そこには、ただ薄気味悪くチロチロと瞬く蝋燭の焔に照らし出された、七人の上気した顔が、微動さえしないで並んでいた。
ふと、ドアのあたりの垂絹の表に、チカリと光ったものがあった。見ていると、その銀色に光ったものが、段々大きくなっていた。それは銀色の丸いもので、丁度満月が密雲を破って現れる様に、赤い垂絹の間から、徐々に全き円形を作りながら現われているのであった。私は最初の瞬間から、それが給仕女の両手に捧げられた、我々の飲物を運ぶ大きな銀盆であることを知っていた。でも、不思議にも万象を夢幻化しないでは置かぬこの「赤い部屋」の空気は、その世の常の銀盆を、何かサロメ劇の古井戸の中から奴隷がヌッとつき出す所の、あの予言者の生首の載せられた銀盆の様にも幻想せしめるのであった。そして、銀盆が垂絹から出切って了うと、その後から、青竜刀の様な幅の広い、ギラギラしたダンビラが、ニョイと出て来るのではないかとさえ思われるのであった。
だが、そこからは、唇の厚い半裸体の奴隷の代りに、いつもの美しい給仕女が現れた。そして、彼女がさも快活に七人の男の間を立廻って、飲物を配り始めると、その、世間とはまるでかけ離れた幻の部屋に、世間の風が吹き込んで来た様で、何となく不調和な気がし出した。