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あかいへや

赤い部屋

江戸川 乱歩

「新青年」博文館、1925(大正14)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,114 字 · 36 页

青空文庫

彼女は、この家の階下のレストランの、華やかな歌舞と乱酔とキャアという様な若い女のしだらない悲鳴などを、フワフワとその身辺に漂わせていた。

「そうら、射つよ」

突然Tが、今までの話声と少しも違わない落着いた調子で云った。そして、右手を懐中へ入れると、一つのキラキラ光る物体を取出して、ヌーッと給仕女の方へさし向けた。

アッという私達の声と、バン……というピストルの音と、キャッとたまぎる女の叫びと、それが殆ど同時だった。

無論私達は一斉に席から立上った。併しああ何という仕合せなことであったか、射たれた女は何事もなく、ただこれのみは無慚にも射ちくだかれた飲物の器を前にして、ボンヤリと立っているではないか。

「ワハハハハ……」T氏が狂人の様に笑い出した。

「おもちゃだよ、おもちゃだよ。アハハハ……。花ちゃんまんまと一杯食ったね。ハハハ……」

では、今なおT氏の右手に白煙をはいているあのピストルは、玩具に過ぎなかったのか。

「まあ、びっくりした……。それ、おもちゃなの?」Tとは以前からお馴染らしい給仕女は、でもまだ脣の色はなかったが、そういいながらT氏の方へ近づいた。