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あかひげしんりょうたん

赤ひげ診療譚

山本 周五郎

02 駈込み訴え

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,864 字 · 44 页

青空文庫

三

太くて、青みがかった灰色の大腸は、まるで生き物のようにうごめきながら、ずるっとはみだして来、そして傷口の外で蛇のようにくねった。登はそこで失神した。急に眼の前がぼうとなり、頭が浮きあがるように感じて、ああ、おれははねとばされるぞと思ったが、そのまま意識を失ってしまった。

三

失神していたのはごく短い時間で、誰かに頬を叩かれると、すぐわれに返った。自分ではながいこと気を失っていたような感じだったが、われに返ってみると、そこはやはり表の三番で、自分は牧野昌朔に抱えられていた。頬を叩いたのは牧野であろう、向うに去定がおり、苦りきった顔つきで、部屋へ帰っていろ、と云った。――登は眼をそらしたまま立ちあがった。そこにある女の躯を見れば、また失神しそうだったし、たとえ意地にもせよ、そこにいるだけの勇気はなかった。

登は自分の部屋で寝ころがった。思いだすと嘔吐を催しそうになるので、なるべくほかのことを考えようとした。けれども、狂女おゆみの出来事に続く今日の失敗は、救いようのない屈辱感で彼自身を圧倒し、うちのめした。

「なんというだらしのないざまだ」登は寝ころんだまま腕で顔を掩った、「それでも長崎で修業して来たなどといえるのか」