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あかひげしんりょうたん

赤ひげ診療譚

山本 周五郎

04 三度目の正直

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,351 字 · 43 页

青空文庫

――それに、もう男を知ってるようだっていうけれども、と猪之は続けた。あにきは遊び馴れているくせに、世間のことを知らなすぎるぜ。

――おれがなにを知らねえんだ。

――女のことをよ、と猪之は云った。昔はどうだかわからねえが、当節はね、生娘のままで嫁にゆく女なんて、千人に一人、いや、五千人に一人もいやあしねえぜ。

――おめえ知ってるのか。

藤吉はひらき直って反問した。おれも近いうちに嫁を貰うことになってる、相手が蠣殻町の娘のおちよだってことはおめえも知ってるだろう、おちよも生娘じゃねえっていうのか。冗談じゃねえ、と猪之は赤くなった。よしてくれ冗談じゃねえ、おらあそんな、だれかれと人をさして云ってるんじゃあねえ、うん、とそこで猪之は頭を反らした。

――おらあ世間一般のことを云ってるんだ。

――きいたふうなことを云うな。

――いつかあにきがいったことだぜ。

――なぞるにゃあ及ばねえや。

藤吉は「梅本」へ掛合いにいった。自分も縁談があったときだし、猪之のようすがきまじめなので、ついそうする気になったのだろう。およのは承知した。彼女は十八だといったが、やっぱりはたちにはなっていたようで、妹が一人どこかに奉公しているほか、面倒をみなければならないような者はなかった。