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あかひげしんりょうたん

赤ひげ診療譚

山本 周五郎

04 三度目の正直

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,351 字 · 43 页

青空文庫

猪之はお杉となにか話しながら、おゆみの住居のほうへと去ってゆき、登はそのまま自分の部屋へはいった。

登は森半太夫に、猪之のすることを見張ってくれるように頼んだ。自分は去定の供で、外診に廻るときのほうが多いからである。半太夫もひまは少ないが、それでもよく注意しているらしく、その日その日のことを詳しく知らせてくれた。――猪之は明らかに変り始めた。部屋にこもっていることが少なくなり、外へ出てなにかかにかする、薬園へでかけていって、鋸や鉋を借りだし、柵の毀れを直したり賄所の羽目板を打付けたりする。

朝夕はきまって、お杉の手籠を持ってやるし、たびたび賄所へいって刃物を研いだり、俎板を削ったり、ときには菜を洗う手伝いまでする、ということであった。

――それならもう安心だ。

まもなく元のようになるだろう、そう思ったので登はしぜんと猪之のことを気にかけなくなった。そうして九月中旬になった或る夜、外診から帰った登が着替えをして、おくれた食堂へはいろうとすると、猪之が追って来て呼びとめた。

「酒があるんですがね」と彼は囁き声で云った、「一杯つきあってくれませんか」

「酒だって、――どうしたんだ」