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あかひげしんりょうたん

赤ひげ診療譚

山本 周五郎

04 三度目の正直

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,351 字 · 43 页

青空文庫

「吉つぁんに頼んだんです」と猪之は唇で笑った、「貴方もまえには、よく酒を買わせたそうじゃありませんか」

登は眼をそむけた、「おれは腹がへってるんだ」

「鮨もありますぜ」と猪之が云った、「まあ来て下さい、じつはちょっと話したいこともあるんだから」

登は彼の部屋へいった。

久しく来なかったが、部屋の中はきちんと片づき、掃除もゆき届いて、気持のいいほどきれいになっていた。

膳の上には定まった食事のほかに、折詰の鮨があり、脇には五合徳利が置いてあった。もちろん燗はできない、冷やのまま飲み始めていたらしく、猪之は坐るとすぐに、湯呑に残った酒を飲んで、それを登に差した。おれはだめだ、と登は手を振り、話というのを聞こう、と云った。

「じゃあ、もうちっと飲まして下さい」と猪之は云った、「もう少し酔わねえと、ちょっと云いにくい話なんだから」

登は静かに云った、「お杉のことか」

「うっ」と云って猪之は登を見た、「知ってらっしゃるんですか」

「詳しいことは知らないが、見当はつくよ」

「へえー驚いたな、そうですか、そんならもうかしこまるには及ばねえ、云っちまいましょう」猪之は湯呑に酒を注ぎ、それを両手で持ってまともに登を見た、「まず、あっしを当分ここに置いてもらいたいんだが、どうでしょうか」