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あかひげしんりょうたん

赤ひげ診療譚

山本 周五郎

06 鶯ばか

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,626 字 · 45 页

青空文庫

「こんなふうに」と云って、登はちょっとまをおいた、「こんなふうに死ぬのはよくない、持って生れた寿命を、自分で捨てるなどということは罪だ、ことにこんな小さな子供まで道伴れにするというのはね、――みんなが見殺しにできなかったのは当然のことだよ」

おふみは口をつぐんだ。ずいぶん長いあいだ、身動きもせずに黙っていたが、やがて、喉のかげんをして軽く咳き、独り言のように細い声で、ぽつりぽつりと話しだした。

五郎吉は深川、おふみは板橋で生れた。どちらも家が貧しく、五郎吉は七つ、おふみはもう五つのときから、子守に出された経験があった。二人の親たちも同じような育ちかたで、五郎吉の父はぼて振の魚屋であり、おふみの父は屑屋や、人足や、手伝いなどを転々としていた。五郎吉は十二の年から薬種問屋に奉公にいったが、十七のとき、倉で荷箱をおろしていると、それが崩れて来て、ひどく頭を打った。当座はなんでもなかったが、半年ほどすると、思いがけないときに一種の発作が起こるようになった。とつぜん意識が昏んできて、ものごとの判断ができなくなる。薬の箱をしまいにいって、棚の前に立ったとたんに、なにをしなければならないか、なにをするためにそこへ来たのか、まったくわからなくなってしまう。