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あかごうしくろうえもんのむすめ
赤格子九郎右衛門の娘
国枝 史郎
「ポケット」1925(大正14)年2月~3月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,174 字 · 33 页
「へえへえ宜敷うござります」
船は闇夜の海の上を矢のように陸の方へ駛って行く。
その翌日のことであった。
落花を掃きながら忠蔵はそれとなく亭の方へ寄って行った。亭の中にはお菊がいる。とほんとしたような顔をして当てもなく四辺を眺めている。
「姐御、変なことになりましたぜ」
忠蔵は窃っと囁いた。
「昨夜の女が死にもせず、旦那に命を助けられてここへ来ようとはコリャどうじゃ」
「お釈迦様でも知らないってね、……お前さんはそれでもまだいいよ。妾の身にもなってごらん。本当に耐ったものじゃないよ。とにかく妾はあの女を川へ蹴落したに相違ないんだからね。これが旦那に暴露ようものなら妾達の素性も自然と知れ、三尺高い木の上で首を曝さなけりゃならないんだよ」
「姐御、逃げやしょう。逃げるが勝だ」
「そうさ、逃げるが勝だけれど、親の敵を討ちもせず、あべこべに追われて逃げるなんて妾は癪でしかたがないよ」
「と云ってみすみすここにいてはこっちのお蔵に火が付きやすぜ」
「とにかくもう少し様子を見ようよ。と云って妾は行かれない」
「へえそれじゃこの私に様子を見ろと仰有るので? どうもね、私にはその悠長が心にかかってならないのですよ。