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ちょうかきんむ

超過勤務

山本 周五郎

「文藝朝日」朝日新聞社、1962(昭和37)年6月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,619 字 · 31 页

青空文庫

んだもの」少女は鼻声をだしながらまたすり寄った、「――おじさんさえよければ、いつかのように口と口でしてあげてもいいわ」

「ばかなことを云うな、こら、おとなをからかうやつがあるか」

「だって本当はしたいんでしょ、だからこないだみたいにしたんじゃないの、いまだってしたいのをがまんしているだけよ、あちしちゃんとわかってるわ」

「きみは誤解してる、きみにはおとなの気持がわからないんだ、僕はね」と云いかけて彼はまぶしそうな眼つきになった、「あのとき僕はセンチになってたんだ、きみが化粧室でひとりで顔を直しているのを見て、急になんとも云えず悲しい気持になったんだよ」

「あらどうして」

「つまり、きみのような若さでもう生活の波に巻き込まれている、つまり」彼は言葉を捜しながら続けた、「きみのような若さで、もう子供ではなくおとなになりかかっている、これから苦労が始まるんだ、いろいろと辛いことや苦しいこと、悲しいことを経験しなければならないんだと思うと、なんとも可哀そうでやりきれなくなったんだよ」

「それであたしにキスしたの」少女は声をあげて笑った、「あたしが可哀そうだからって」