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ちょうかきんむ

超過勤務

山本 周五郎

「文藝朝日」朝日新聞社、1962(昭和37)年6月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,619 字 · 31 页

青空文庫

エア・キャリアのブザーが鳴った。彼は手を伸ばしてパイプの蓋をあけ、中からまるい筒を取り出し、それを逆にして、筒にはいっていた書類をデスクの上に振り出すと、円筒をパイプへ戻して蓋を閉め、返送のボタンを押しながら、鳴りだしたべつの電話の受話器を取った。

「はあ」と彼は喉で声をころして云う、「こちらは、――はあ、整理部でございます、いいえ副部長はおりません、私は副部長代理の木内徳、――はあ、副部長は部長さんとごいっしょでゴルフにゆかれました、はあ、午後一時ごろおでかけで、私にも来いと申されたのですが、私には仕事が残っていますものですから、はあ、はあ、はい、いまここへ届きました、はあ、はいかしこまりました、はいどうも」

彼は受話器を置いて、いまエア・キャリアで届いた書類のゴムバンドを外し、それをデスクの上にひろげた。彼はそれらをずっと眺めてから、ごく軽くうなり声をあげ、立ちあがって書棚のところへゆき、ガラス戸の外から中をのぞいてみて、一つの書棚から三冊の大きい帳簿を抜き出して戻った。

「これもかせぎさ」彼は帳簿をデスクの上に置いて呟く、「おかげで超過勤務手当がもらえる