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えちごのふゆ

越後の冬

小川 未明

「新小説」1910(明治43)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,272 字 · 15 页

青空文庫

」

と、独りで言いながら、考えて頭を傾げていたが、また何と思い返したか、笛を取上げた。

笛を見ると、彼はまた楽しみの心を禁ぜずにはいられない。この笛を吹くのだ。麓の村へ持て行ってこの笛を吹くのだ。雪が降って外へ遊びに出られなくても、この笛があれば、吹いて楽しく家で遊んでいられる。来年の春になって、小鳥が来る時分までもこの笛を大事にして取って置く。

「何時頃お父さあは帰って来さっしゃるだろう。その時分までもこの笛を大事にして取って置いて帰らしたら見せるのだ。」

こう考えると、無限にこの笛が懐かしい、恋しい、何うしたらいいだろうかと笛を取上げて彼は雀躍をした。而して割らないようにと念に念を入れて、只一つまだ開けない孔を穿り始めた。

「この孔が開いた時分にお母は帰って来やしゃるだろう。」

といって、口を歪めて、眼を円く飛び出して、小刀に力を入れた。

雪の多い上越後の片田舎では、冬になれば外の楽しみは全く絶えてしまう。猟に出かけるものはこれを商売にする猟師か、若しくは金持の道楽息子の他にない。一般の百姓は若い者も、年老たものも、総て終日囲炉裏に火を焚いて取巻き寛ぎ、声の好いものは声自慢に松前や、または郷土固有の甚句や、磯節などを歌って、其処に来合せたものに聞せる。