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おどるいっすんぼうし

踊る一寸法師

江戸川 乱歩

「新青年」博文館、1926(大正15)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,734 字 · 16 页

青空文庫

「ホホホホホホホホ」

突然晴々しい女の笑声が起った。

「豆ちゃん味をやるわね。ホホホホホホホ」

それは云うまでもなくお花の声であった。彼女の青ざめた首が、テーブルの上で笑ったのだった。

その首を、一寸法師はいきなり又、袖で隠した。そして、ツカツカと黒幕のうしろへ這入って行った。跡には、からくり仕掛けのテーブルだけが残っていた。

見物人達は、余りに見事な不具者の演戯に、暫くはため息をつくばかりだった。当の手品使いさえもが、目をみはって、声を呑んでいた。が、やがて、ワーッというときの声が、小屋をゆすった。

「胴上げだ、胴上げだ」

誰かが、そう叫ぶと、彼等は一団になって、黒幕のうしろへ突進した。泥酔者達は、その拍子に足をとられて、バタバタと、折重って倒れた。その内のある者は、起上って、又ヒョロヒョロと走った。空になった酒樽のまわりには、已に寐入って了った者共が、魚河岸の鮪の様に取残されていた。

「オーイ、緑さーん」

黒幕のうしろから、誰かの呼び声が聞えて来た。

「緑さん、隠れなくってもいいよ。出ろよ」

又誰かが叫んだ。

「お花姉さあん」

女の声が呼んだ。

返事は聞えなかった。