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おどるびじんぞう
踊る美人像
野村 胡堂
「文芸倶楽部」1930(昭和5)年6月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,460 字 · 31 页
部屋の中程、窓際に据えたテーブルの抽斗を開けて、糸子は何やら光るものを取り出します。
見るとそれは、拳の中へ隠れてしまいそうな、華奢な短銃。
「危いじゃないの、そんな物を振り廻しちゃ」
「大丈夫、これでも弾はちゃんと六発共こめてあるんだから」
「あッ、尚お悪いわ」
「凝っとしてお在で、的が動いちゃ困る」
「冗談じゃない。お止しよ。あれッ」
金切声をあげて飛上ったのは、同じアパートの隣りの室を借りて住んで居る、篠井智恵子という、同じ帝都劇場の花形、柳糸子に劣らず美しい癖に、柳糸子と姉妹のように仲よくして居る女優でした。
競争者の地位に居るこの二人が、こんなに仲の良いことは、帝都劇場に取っても、どんなに幸せだったかわかりません。尤も柳糸子は喜劇的で明るくて、篠井智恵子は悲劇的で暗く、同じように美しいうちにも、性格も役柄も違って居るのが、却って二人の友誼を濃やかにしたのかもわかりません。
十坪ばかりの室の中を、美しい男女は暫らく、キャッキャッと逃廻りました。これは糸子が客間とも居間ともなく使って居た室で、一方は境の扉は厳重に閉しては居るが、篠井智恵子の借りて居る室に通じ、一方は廊下を隔てて女中部屋に面し、一方は窓、一方は小さい寝室に扉一つで通じて居ります。