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おどるびじんぞう
踊る美人像
野村 胡堂
「文芸倶楽部」1930(昭和5)年6月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,460 字 · 31 页
「あッ」
女優は一歩下りましたが、気を取り直して遠い灯に男の顔をすかし乍ら、
「矢張り貴方ねえ。手が変って居るから変だとは思ったが、あんな事を言われると来ないわけには行かない――」
勝気らしい次高音が、夜の空気に艶めかしく響きます。
「斯うでもしなければ、俺に逢ってくれるお前では無い」
「そう判って居るだけ感心よ。サア、物わかりの良い坊ちゃんは、こんな気障に筋書を書くものじゃない、黙って私を帰らして頂戴」
「いけないよ」
「じゃ、何うしようと言うの」
「これでも昔の良夫じゃないか、一時間や二時間は付き合ってもよかろう」
「御免蒙るワ。今晩は私のアパートへ大勢客を招んで居るから、昔の亭主などを相手にしちゃ居られない。御存じの通り私の生活はそりゃテンポが早いんだから」
「何?」
「貴方の顔を見ると、胸が一杯になるという事なの、横須賀行の電車見たいな顔だわねエ。ホ、ホ、ホ、ホ」
抑え切れない嬌笑が、闇の中に突っ走ります。
「畜生ッ、まだ俺を馬鹿にする気か」
「あら、御免なさいよ、そんな気じゃないワ。だけど、本当に今晩は付き合っちゃ居られない、次にして下さいな。無期延期よ、ね、ね」