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おどるびじんぞう

踊る美人像

野村 胡堂

「文芸倶楽部」1930(昭和5)年6月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,460 字 · 31 页

青空文庫

歓楽の渦

今晩は私客をして居るんです。貴方も臨時のお客になって、玄関から真っ直ぐに私の部屋へ通って下さいネ。私は裏からそっと入って、女中に着物を持って来さして入って行くわ。宜いでしょう、ネ。そうでもしないと、お客様の手前を誤魔化し切れないワ、一寸の間だけ、久美子に繋ぎを頼んでは来たけれど――え、帝都劇場の橘久美子よ――あの人はドジだから心配よ、ね、ね」

「…………」

千種十次郎は、それにも拘らず、此まま帰ろうかと思いましたが、柳糸子は早くもその気振りを察して、

「貴方は、本当に親切よ、しっかりお礼がし度いワ。ね、帰っちゃ厭」

いきなり柔かな腕が十次郎の身体を引止めます。

歓楽の渦

「あら、何うなすったの」

「お客を放り出して、雲隠れはひどいよ」

「随分長かったワ」

「まさか夜逃げをしたんじゃあるまいね」

一座の客は、柳糸子を取り巻いて半円を描きました。皆んなで六人、半分は女優で、半分は男、金と智慧には困ったことの無いような顔をして居る人種ばかりです。

美しい主人公の帰ったのを見て、急に踊りの輪が崩れたのでしょう。電気蓄音機に掛けっ放しにされたジャズのレコードは、一番俗悪で、一番刺戟的な歌を、臆面もなく歌い続けて居ります。