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のうそん
農村
宮本 百合子
「多喜二と百合子 七号~十三号」多喜二・百合子研究会、1954(昭和29)年12月~1955(昭和30)年12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 49,223 字 · 97 页
田舎は時間と云う考が少ないのでいつと云う限りなしに来ても来ないでも同じ様な者が沢山来るのでその度毎に出すとかなり沢山あったものでもじきになくなって仕舞う。カステラがあと一切分ほか残りがなくなったりすると急に減り目を目立って心に感じて、
「もうこれっぽっちになったのかねえ。
なんかと云う。
祖母の口へ入るより来る者の喰べる方がどれだけ多いか分らない。
東京の習慣だと客に行って出された菓子をあるだけ喰べる事はしないので、始めのうち炉端へ座り込んで自分で茶をつぎ、よっぽど沢山ででもなければ残さず出したものを喰べる無邪気っぽいお客連を見ると変な気持がした。
お繁婆さんは木皿へ盛って出されたカステラをしげしげと見ていろいろの讚辞を呈してから大切そうに端から崩して行く。実際この村や町では藤村のカステラの様な味のものはさかさに立っても喰べられないのである。
お繁婆さんが永い事かかってカステラを喰べ幾重にも礼をのべて帰った後から、元、小学校の教師か何かして居た人の後家が前掛をかけて前の方に半身を折りかぶせた様にして来た。何でもない、只町に新らしい芝居のかかった事とこの暮に除隊になる、自分の家の前の息子の噂をしに来たのである。