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のうそん

農村

宮本 百合子

「多喜二と百合子 七号~十三号」多喜二・百合子研究会、1954(昭和29)年12月~1955(昭和30)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 49,223 字 · 97 页

青空文庫

町の三つに分れる処にある床屋には、沢山若い百姓が集って居る。

極く極く質朴な処が若い百姓には少なくて、金のある時に町へ行って買いためたハンケチだの、帯だの、ニッケルの時計だの、指環だのをあらいざらい身につけて、新銘仙の着物等を着て居るのが多い。節くれだった小指に、鍍金の物々しい金指環をはめて居たり、河ぱの様にした頭に油を一杯つけて、紫の絹のハンカチでいやらしく喉を巻いたりして居る様子は、ついしかめっ面をするほどいやだ。何故こんな様子がしたいんだろう。純粋の百姓の様子で何故いられないのだろう。都会の、借金して縮緬の紋附を着る浅ましい気風がこんな山中にまで流れて来て居るのだろう。

教育家でなく、宗教家でないでも、いやな事だと思うよりほか仕方がない。斯うやって、鍍金の指環をはめたい男達は、自分の能力を考えもしずに都会の派手な生活にあこがれて、上野の停車場へ降りさえすれば、目の前に金のもうかる仕事が御意のままにころがって居ると思って居る。それほどに思って居ないにしても、とにかく、非常に易々と成功を遂げられるものだと思っては居るに違いないのである。

娘でも、東京へ出て一二年奉公でもすれば、立派な奥様になりあがって、明日はどこの芝居、その次の日は何の会と歩き廻れるものの様に思って居る。