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きんせいかいじんでん

近世快人伝

夢野 久作

「新青年」1935(昭和10)年4月号~10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 79,469 字 · 157 页

青空文庫

こちの方がヨッポド済まん。ところで済まん序にチョット待っとれ。骨休めするケニ』

私はその五円札を一枚持って飛出いて、近所の酒屋から土瓶に二杯、酒を買うて、木賃宿から味噌を一皿貰うて来ました。何しろ暫く飢渇いておったところですから、骨休めというので、ツン公と二人で燗もせぬ酒をグビリグビリやっております、とその横で大惣がウンウン唸り出しました。又、私の袖を引きますので五月蠅しい奴と思うて振向きますと、大惣の奴、熱で黒くなった舌を甜めずりまわしております。

『……オレ……モ……一パイ……ノム……』

『途方もない事をば云うな。馬鹿……その大病で酒を飲むチウ奴があるか。即死てしまうぞ』

大惣の落ち凹んだ眼の色が変りました。涙をズウウと流しながら歯ぎしりをして半分起き上ろうとします。

『ソノ……サケハ……オレノ……キモノ……テツケジャ……。オレモ……ノム……ケンリ……ケンリガ……アル……』

私は胸が一パイになりました。

『アハハハハ。これは謝罪った。俺が悪かった悪かった。よしよし。わかったわかった。寝とれ寝とれ。サア飲め。ウント飲め。末期の水の代りに腹一パイ飲め……』