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きんせいかいじんでん
近世快人伝
夢野 久作
「新青年」1935(昭和10)年4月号~10月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 79,469 字 · 157 页
ヤッサ、モッサと話が片付かぬ中に二人は、代る代る手を出して背後の小丼の中味を抓んだ。
「ハハン。この家のおっさんのガッチリして御座るのには呆れた。両方儲かる話が、わからんチウタラ打出の小槌でたたいても銭の出んアタマや……ハハン。買うて下はらぬ位なら他の店へ行くわい」
とか何とか棄科白で、大手を振って棕梠箒売が引返して来た時には、小丼の中にはモウ濁った醤油と、生姜の粉が、底の方に淀んでいるだけであった。
箒売は土間の真中に突立ったまま唖然となって、上機嫌の二人を眺めておった……が、やがてガラリと血相を変えると、知らん顔をして指を舐めている仁三郎に喰って蒐った。
「……アンタ等は……ダ……誰に断って、この肴をば、抓みなさったカイナ」
湊屋がゲラゲラ笑い出した。
「アハハ、途方もない美味か鰤じゃったなあ。ホーキに御馳走様じゃった。まず一杯差そうと云いたいところじゃが、赤桝の中はこの通り、逆様にしても一しずくも落ちて来んスッカラカン……アハハハハ。スマンスマン……」
真青になって腕を捲くった箒売が、怒髪天を衝いた。
「済まんで済むか。切肉を戻せッ」
仁三郎は柔道の免許取りであっただけにチットも驚かなかった。