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きんせいかいじんでん

近世快人伝

夢野 久作

「新青年」1935(昭和10)年4月号~10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 79,469 字 · 157 页

青空文庫

黒羽二重五つ紋に仙台平か何かの風采堂々と、二人を眼下に見下して、

「ヤア。お待たせしました」

と云いながら真正面の座布団に坐り込んだが、火鉢の縁へ手を載せたトタンにヒイヤリとしたので、ちょっと驚いたらしく掌を見ると、白い柔らかい、平べったい、豆腐の破片みたようなものが手の平へ二三枚ヘバリ付いている。嗅いでみると異様なたまらない臭いがする。菊地市長いよいよ驚いたらしく背後をかえりみて女中を呼んだ。

「オイオイ。この火鉢の縁の……コ……コレは何だ」

女中が真青に面喰った。ちょっと見たところ、正体がわからないし、自分が並べたおぼえがないので、返事に窮していると頭山先生が静かに口を開いた。

「それは僕の尻から出たサナダ虫をば並べたとたい」

菊地市長は「ウワアッ」と叫んで襖の蔭に転がり込んで行ったが、それっ切り出て来なかった。

二人は仕方なしに市長官舎を辞したが、門を出ると間もなく正直者の進藤喜平太氏が、

「折角会えたのに惜しい事をした」

とつぶやいた。頭山先生は又も股倉へ手を突込みながら、

「フフン。あいつは詰らん奴じゃ」

まだある。

これは少々グロを通り越しているが、頭山翁の真面目を百パーセントに発揮している話だから紹介する。