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ついそう
追想
宮本 百合子
「婦人之友」1922(大正11)年6月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 3,582 字 · 8 页
或る春の心持の晴々とする朝、始業の鐘が鳴り、我々は、二階の教室に行こうとしていた。
どうかして自分はおそくなり、列の後の方に跟いて行った。皆、さほど大きな声は出さず、然し、若い生活力が漲り溢れるような囁きを交しながら、階段を昇って行く。――
そこへ、傍の廊下から、受持の先生が出て来られた。列になっているから、皆、お辞儀はしない。が、前に行くと同じように、若い娘らしい謹みを現して通り過る。――
先生は、手を前に垂れて組み、優しいような、厳しいような微笑を湛えながら、一人一人、注意深く、顔、髪、着物と眼を走らせる。――私共は、皆心の裡で、この、朝の出迎えが、何を意味するか知り、嬉しがってはいなかった。
私共は、極端に、髪や顔の化粧や着物のことを喧しく云われた。人間の心得として、虚飾や、いかものの化粧が、実に無価値であることを、教えられるより、細々、一々、実際について、批評される。それも、
「あなた、そういう風は、しない方がよくはありませんか、お嬢さんらしくないから」とか、
「おやめなさい」
と、率直に、慈愛を以て、ひそかに告げられるのではない。
実に、厭味、苦しめる暗示で、大勢の中で、神経的に云われる。