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ついおくのとうや
追憶の冬夜
寺田 寅彦
「短歌研究 第三巻第十二号」1934(昭和9)年12月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 4,522 字 · 9 页
をやろうと云い出したものがあった。この「難破船」の遊びが前述の「神鳴り」とそっくり同じようである。
先ずはじめに銘々の持ちものを何か一つずつ担保 gage として提供させる。それから一人「船長」がきめられる。次にテーブルを囲んだ人々の環を伝わって卓の下でこそこそと品物が廻される。口々に La mer est calme, la mer est calme.(好い凪だ)と云っている。次に何と云ったか忘れたが、とにかく「海が荒れ出した」という意味の言葉を繰返している。その間にも断えず皆が卓の下で次々に品物を渡しているような真似をしている、その人の環のどこかを実際に品物が移動しているのである。船長がいきなり「ノーフラージュ(難船)」と怒鳴ると、移動がぴたりと止まるのである。自分も一度運悪くこの難船にぶつかって何かケルクショーズをしなければならないことになったので、そのケルクショーズの思案に苦しんでいたら隣席の若いドイツ人がドイツ語でこっそり「いちばん年とったダーメに花を捧げたまえ」と教えてくれた。幸いにドイツ語はこの席の誰にも通じなかったのである。そこで私は立って窓枠にのせてあった草花の鉢をもって片隅に始めから黙って坐っていた半白の老寡婦の前に進み、うやうやしくそれを捧げる真似をしたら皆が喜んでブラボーを叫ん