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ついおく
追憶
宮本 百合子
「宮本百合子全集 第二十九巻」新日本出版社、1981(昭和56)年12月25日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,363 字 · 35 页
障子を閉め切って澱んだ様な部屋の中に、銀砂子を散らした水色の屏風の裏が大変寒く見える前に私は丁寧に手を突いた。
そして一番偉い方だと思って居る先生にするよりもっとあらたまった静かなお辞儀をした。
手を膝にのせてその水色を見つめて居ると、物恐ろしさは段々消えて、
「ほんとにお叔父ちゃんは死んじゃった。
と云う絶望的な、もうどうしても取り返しのつかない心持がはっきりし出して、私は大人の様な静かなそれで居て胸を掻きむしられる様に苦しい涙をこぼしたのであった。
その次の日から朝、お水と塩を枕元の机に供えるのが私の役目になった。
朝になると私は目が醒め次第暗い叔父の枕元に新らしいそれ等の供物を並べた。
生きて居る叔父に食べ物を並べてあげる通りどこかでお礼を云われて居る様な彼の大きな掌が、
「ありがとうよ、
好い子に御なり。
と頭を叩いて呉れる様に感じて居た。
そして、常に叔父の云って居た事が間違わなければ、好い事をした人は好い所へ行く筈だから、
お叔父ちゃんも今にどっか好い所へ行くのだろう。
と云う想像が非常に私を安心させて居たのである。
納棺の朝頃であったと思う。