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さかだちのおおやけ・わたくし

逆立ちの公・私

宮本 百合子

「文芸春秋」1946(昭和21)年2・3月合併号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 4,598 字 · 9 页

青空文庫

の範疇に入れられることとなった。そして、「日本のため」或は「天皇のため」にということが、すべての私を滅した一億人民の公的な生存意義とされたのであった。

日本の個人主義は、よきにつけ、あしきにつけ、未発達のまま、第二次世界大戦、太平洋戦争に突入してしまった。そのため、一個人としての自主的な判断力が、どの個人の能力の中にあっても薄弱であった。薄弱な客観的判断力を、津浪のような軍事的強権で押し流して、その人々の考える「公的」なものの中へ、人民生活の全面を集注させたのであった。

世界連帯のひろやかな展望から見て、旧い領土問題から出発した「日本のため」という観念が、どんなに狭い限界をもつのであるか、今日判断をあやまるものはないと思う。世界人類の福祉という公的な観念と対比すれば、日本の軍閥の意味した「日本のため」が、私的な性質を帯びたものであったことを、今日否定する人はないであろう。

第一歩で、とりちがえて提出された、日本における公私の逆立ちは、戦争が進むにつれ次第に深刻な具体性をもって来た。

例えば、遠い大洋をへだてたあちこちの島々に、守備としてのこされた一団の兵士たちは、どういう経験をしただろう。