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すきとおるあき

透き徹る秋

宮本 百合子

「婦人倶楽部」1921(大正10)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 2,512 字 · 6 页

青空文庫

が、智が足りない。智と想像とが均衡を保つ時において始めて善く書けるものである。二者何れかが勝った時は駄目だ。棄ててしまって再び書き直さねばならぬ。」

これは、トルストイが、水浴場へ行く道々子のイリアに話したという創作上の気分に就ての言葉である。

けれどもこんな内省は、たといト翁ほど偉大ではなく性格の点で全然異った型に属する者でも、創作のことに携るものとなれば、大なり小なり、幾度ずつか経験していることではないだろうか。

芸術家の個性により、微妙な色と角度との差異はあっても等しく内に、何等かの調和律を持たないものは無かろう。真心を以て芸術に参するものは、自己に許された範囲に於て、最大・最高の諧調を見出したいという祈願を、片時も捨てかねるものと思う。然し、仕事に面して、どんなことを仕ようが自分以上にはなれない。自分の内に在るだけの輝きほか、自分を照すものはない。而も、発育したい希い、より完美な芸術を創始したい熱情に鞭打たれた場合、少くとも自分は、惨めに焦慮する心持を知っている。それが、如何に統一を破るかも知っている。そのために翻って、どんなに製作に向っての無私が必要だか、意識下の均衡が大切だか思い知らされているといえるのである。