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とじょう
途上
谷崎 潤一郎
「改造」1920(大正9)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,060 字 · 32 页
筆子は二度も流行性感冒に罹っています、これは彼女が普通の人よりもそれに罹り易い体質を持っている証拠です。だから電車へ乗れば、彼女は多勢の乗客の内でも危険を受けるべく択ばれた一人とならなければなりません。自動車の場合には乗客の感ずる危険は平等です。のみならず僕は危険の程度に就いてもこう考えました、彼女がもし、三度目に流行性感冒に罹ったとしたら、必ず又肺炎を起すに違いないし、そうなると今度こそ助からないだろう。一度肺炎をやったものは再び肺炎に罹り易いと云うことを聞いてもいましたし、おまけに彼女は病後の衰弱から十分恢復しきらずにいた時ですから、僕のこの心配は杞憂ではなかったのです。ところが衝突の方は、衝突したから死ぬと極まってやしませんからな。よくよく不運な場合でなけりゃ大怪我をすると云うこともないし、大怪我がもとで命を取られるようなことはめったにありゃしませんからな。そうして僕のこの考えはやはり間違ってはいなかったのです。御覧なさい、筆子は往復三十回の間に一度衝突に会いましたけれど、僅かに擦り傷だけで済んだじゃありませんか」
「なるほど、あなたのおっしゃることは唯それだけ伺っていれば理窟が通っています。