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うんめいろんしゃ
運命論者
国木田 独歩
「山比古 第十號」1903(明治36)年3月5日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,357 字 · 34 页
老僧は猶も父が病中母を罵しったこと、死際に大塚剛蔵に其一子を托したことまで語りました。
其お信が高橋梅であるということは、誰も知らないのです。僕も証拠は持て居ません。けれども老僧がお信のことを語る中に早くも僕は今の養母が則ちそれであることを確信したのです。
僕は山口で直ぐ死んで了おうかと思いました。彼の時、実に彼の時、僕が思い切て自殺して了ったら、寧ろ僕は幸であったのです。
けれども僕は帰って来ました。一は何とかして確な証拠を得たいため、一は里子に引寄せられたのです。里子は兎も角も妹ですから、僕の結婚の不倫であることは言うまでもないが、僕は妹として里子を考えることは如何しても出来ないのです。
人の心ほど不思議なものはありません。不倫という言葉は愛という事実には勝てないのです。僕と里子の愛が却って僕を苦しめると先程言ったのは此事です。
僕は里子を擁して泣きました。幾度も泣きました。僕も亦た母と同じく物狂しくなりました、憐れなるは里子です。総ての事が里子には怪しき謎で、彼はたゞ惑いに惑うばかり、遂には母と同じく怨霊を信ずるようになり、今も横浜の宅で母と共に不動明王に祈念を凝して居るのです。