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みちづれ

道づれ

宮本 百合子

「文芸」1937(昭和12)年11月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,491 字 · 41 页

青空文庫

黎明書房では単行本の出版をやったり、雑誌を出したりするようになってから、表通りの店とくっついた裏の三間ばかりの家をも共通につかいはじめた。裏では家族が主に寝おきしているのであった。

靴をぬいでいると、

「や」

紺と白との縞の襟に、店名を黄糸で縫った働き着の若者が、帳場の奥から立って来た。

「まだ見えてないようですよ」

店からは陰になっている階段を、重吉はいつものとおり、いそがず肩をふる体つきでのぼって行った。途中で、重吉はうしろから来る光井に、

「お、ちょっと待て」

と云った。

「このスリッパ、変だよ、こわれてる」

重吉は階段の中段で窮屈そうな恰好をしていたが、片方のこわれた方をぬいで手にもつと、あとは足早にのぼり切って、おどり場のところでペタンと床におとしたスリッパアに再び足をひっかけた。そこはまがいの洋室になっていた。外の廊下にも、ドアをあけて入った壁際にも、荒繩でくくったストック本が雑然とおいてある。籐の大分ひどくなった長椅子、曲木の椅子数脚などが大きい罅われのある楕円形のテーブルをかこんで、置かれている。床にもテーブルの上にも、昼間じゅう東京を南から北へと吹きすさんだ大風で夥しく砂塵がたまっていた。