轻松读懂日语经典作品
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みちづれ
道づれ
宮本 百合子
「文芸」1937(昭和12)年11月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,491 字 · 41 页
二年ばかり前、みほ子は店で化粧品部にまわっていた。そこで扱うのは殆ど舶来品ばかりであった。特別フランス語が多くて、白粉と香水の名を覚えるに、みほ子は片仮名で書いたカードをこしらえて、往復の電車の中で暗誦しなければならなかった。その困難と、毎日の暮しの余りの単調さとから、いっそフランス語を勉強して見ようという気になった。みほ子は、神田の或る名の知れた教授所へ行った。受付口で初等級への手続をした。黒い事務カフスをつけたいくらか気取った若い男が、小さな風呂敷包を窓口において上気している物馴れないみほ子に向って、
「お名前は?」
ときいた。
「あの、高浜みほ子って云うんですけど……」
「マダムですか、それともマドモアゼルですか?」
「…………」
みほ子は何のことかよく分らず躊躇していたが、小腰をかがめるようにして真面目に答えた。
「あの、どっちでもいいんですけど……」
その時の自分の答えを思い出すと、みほ子は独りであはあは笑えた。受持の男は、初めびっくりしたような顔付をしたが、やがてニヤリとして、
「じゃ、マドモアゼルにしときましょう」
舌や口をいろんな風に動かして発音の練習をしなければならないのが、みほ子には、ばつがわるく、きまりがわるかった。